場所の記憶・・・保育園をつくる七つの原則 3
私たちは,建築がその建つ場所を映し出すことを望んでいます。デザインが場所や地域や時代の固有性を表現するよう努めます。街や村を歩きまわり,景観を調査して,土地が培ってきた表情を学びます。人々の暮らしを見つめ,土地の歴史を調べます。このようにして,デザインのなかにその場所らしさ、固有性を表現するための鍵やきっかけを掘り起こしてゆきます。
列に並ぶ
新しい保育園が建つ場所、敷地、その地域、その国、には長い「場所の営み」の歴史があります。新しく建物をつくることは、その「場所の営み」の列に並ぶことです。新しい建物は、先輩の建物たちに新たに仲間入りする新入生のようなものです。周囲の建物の姿、またその歴史をよく調べ、どのように調和を取るかを考えなくてはなりません。

景観を読む
バリ:
美しい曲線を描くバリの水田。この曲線は地形と田を耕す水牛の回転半径によって決まったものです。恣意的なものではなく、必然的なものです。
十勝:
整然と区画された十勝の畑。農仕事はトラクターなどの農業機械によって行われるため、機械で耕しやすい四角い形に統一されています。風景から人々の営みが読みとれます。
五島列島:
かつての建築や集落は、そのすぐ周辺で入手できる素材で造られていました。構造も、ほとんどの建物は木造でしたので、建物の大きさや形態、外観や仕上げも限定されていました。必然的に地域ごとに特徴的な表情の、統一された美しい景観が生まれた訳です。
春日井:
今日では流通と情報の革命により日本中のそして世界中の、あらゆる種類の材料で建築が造られるようになりました。また、鉄骨造・コンクリート造の技術が普及したために、自由な形態の建物、巨大な建物が可能になりました。そして空調設備の普及で気候風土と適応しない建物も増えました。こうして一つに地域に様々な種類の建物が増えたことで、景観は混乱しているように見えます。しかしこれが今日の人々が望み、作り出した景観なのです。
NEW YORK MANHATTAN:
人類は、権力欲・金銭欲・顕示欲などあらゆる欲望を原動力にしてモノを創ってきました。マンハッタンの景観からは、人類の創造への執念を見ることが出来ます。都市は人々がモノに託してきた希望の集積なのです。
このように景観は社会の仕組みや、人々の欲望=価値観を映す鏡と言っても良いでしょう。ですから美しい景観を創るためには、そのような社会と心が必要なのです。私たちの創る保育園もまた新しい街の一部となり、街の景観を創るのです。私たちはどのような景観を創り未来に残して行くのでしょう。

地域の固有性を表す
気候風土を形に表す:
環境に優しい建物を作りましょう。環境に優しいことの一つの条件は、省エネルギーであることです。空調設備に過度に依存しない、夏涼しく冬暖かい家を、人工換気設備に頼らない風通しの良い家を、昼間から蛍光灯を点けなくても済む明るい家を、そんな園舎を作りましょう。そのような建物は、土地の気候風土を捉えているため、必然的に場所の固有性を表す建物になるでしょう。
ひさし:
日本(北海道・東北を除く)のように高温・多湿・多雨の地域では、窓や出入り口にはひさしが必要です。庇がないと雨の日は雨が吹き込むために窓が大きくは開けられず、梅雨の頃は暑くてなりません。最近の建物では、庇を付けないのが当たり前のようになっているものがあります。これは常時エアコンを入れている建物のデザインです。庇の出は、南の地方に行くほど大きくします。夏の太陽を遮り冬に陽を入れるためです。庇は、昔からあって今でも有効な、太陽光をコントロールするための装置なのです。
縁側:
同様に、高温・多湿・多雨の地域では、屋根があり外に向かって全面的に開放できる縁側のような空間は、特に気持ちの良い空間です。また、このような中間領域は室内と外をつなぐ機能を持ち、子ども達が自然と外に出やすい空間になり、園舎に適した装置です。
北海道十勝の土間:
一方乾燥した寒冷地、十勝のようなところでは、土間が有効な生活の装置となります。気温が−20℃以下になる厳しい冬。雪に閉ざされ、人びとは室内での生活が長くなります。土間があると、冬の活動ものびのびとします。日当たりを良くして、植物を置けば素晴らしいアトリウムになり、冬の生活に潤いをもたらすでしょう。
地域の素材:
沖縄県名護市役所はコンクリートブロック製の「アサギ型」ルーバーを屋根としています。一つの「アサギ型」ルーバーな民家の大きさに等しく素材も同じであるため、写真のように町並みに連続した風景を創っています。コンクリートブロックという地域に特徴的な素材の使用と、周囲の家屋とのスケールの連続性により、街と一体となった建物となっています。
埼玉県宮代町の屋敷林:
埼玉県宮代町の農村地帯です。家屋は屋敷林に囲まれています。屋敷林は冬の北西風を防ぎ南に暖かい日だまりを作ります。屋敷林が水田の海に浮かぶ島のように、美しい風景を作っています。日本の各地にはまだまだこんな特徴のある風景が残っています。
季節の行事:
日本の家庭で日本の文化を子ども達に継承していくことがあまり行われなくなってきました。最近では、家庭に代わって保育園がその役割を果たしているようです。そして保育園におけるこの機能は、今後ますます大きくなると思われます。入園式、お花見、端午の節句、七夕、お盆、お月見、クリスマス、お正月、七草がゆ、節分、ひな祭り、卒園式・・・保育園には、これらの行事を、より楽しく、より厳かに行えるような仕掛け、しつらえを用意したいものです。子ども達は厳粛な儀式が大好きです。
季節の庭:園庭に植えられる植物は、地方の気候を反映します。梅、桜、桃、あじさい、夾竹桃、朝顔、ヘチマ、ひまわり、ススキ、銀杏、もみじ、椿、さざんか・・・日本の季節を代表する草木で、園庭を飾りませんか。子ども達は生活の中で地方の特色になじむと同時に、地方の文化伝統を楽しむことも出来るでしょう。
日本的生活:
私たちは日本という国=地域に住んで、日本的生活を送っています。生活様式はかつてのものと大きく変わり西欧化していますが、西欧のそれとは違い、アジアのものとも違います。やはり現代の日本的生活です。昔から変わらない生活様式もありますし、新しく獲得した様式もあります。その中には、次の世代にも是非伝えていきたいものもあります。もう一度身の回りを見まわしてみませんか?

保育園は思い出
こころのシンボル:
保育園は、地域コミュニティーの中心としての役割がますます高まりつつあります。これが自分の保育園だといつまでも愛着の持てる外観、園庭の大きな木など、共同体のこころのシンボルとなるようなものを備えたいものです。
100年園舎:
建築や場所は人々の記憶をとどめるメディア=記憶装置です。園舎や環境を出来るだけ大切にし、安易に建て替えることをせずに、長持ちさせたいものです。構造の補強や屋根の修繕、内装のリニューアルで建物の寿命を延ばしましょう。やむを得ず新たに建てるときは、古い園舎の記憶をつなぎ止める工夫をして下さい。写真ーは古い家の建具を新しい家に使って再生した例です。そして新しい園舎を建てるときは、100年は使うつもりで設計しましょう。構造などの技術的な問題は、現在では解決されていると考えて良いでしょう。
フレキシブルな空間:
建物が寿命を迎えるもう一つの原因は、機能的に実用に耐えなくなったり、設備系統が古くなり満足できなくなるケースが多いのです。建築の平面計画をフレキシブルなものにし、25年毎には大規模改修により設備や内装をやり変えることを視野に入れると良いと思います。丈夫な躯体と、軽い構造の間仕切り、フレキシブルな平面が鍵です。 
同窓会:
帯広市にある「あじさい保育園」では、各年代ごとの卒園生の同窓会がしばしば開かれているそうです。卒園生とその当時の保母さん達が集まり、一緒にバーベキューパーティーをしたり、そのままみんなで保育室に一泊したりするそうです。卒園生達は、互いに友達というより兄弟のような関係になっているということで、すでに成人した年代の卒園生もいまだに集まるそうです。
社会や学校での生活が、ますます緊張を強いるものになっています。一方、子ども達にとって保育園時代は、競争にさらされない無垢で純粋な、宝物のような思い出として残っているようです。
卒園生にとって保育園が大切な思い出の場所となり、心に残り、大人になってからも自分が育った保育園を再び訪れるというのは、とても豊かなことだと思います。

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バリ:地形にそった美しい棚田
十勝:グリッド状にならぶ畑地
五島列島:折り重なる集落風景
春日部とNewYorkの景観
沖縄の深い庇は強い光を遮る
外でもなく中でもない中間領域。そこで行われる活動も様々
土間は長い冬の間の活動域となる
屋敷林は風を遮る機能と併せて美しい風景をつくり出している
お餅つきに豆まき。どちらも昔ながらの風物詩。
卒園式。子どもは誇らしげだ。
園庭の大きな木。園のシンボルだけではなく、地域のシンボルにもなりえる
異世代間の交流も楽しい思い出のひとつ。