多様性・・・保育園をつくる七つの原則 2
建築とは人々の出会いの場です。多様な空間特性が総合的に組み立てられた環境の中では,その環境を媒介にしてさまざまな出会い 〜人と人の,あるいは人と物との〜 が生まれます。私たちは計画する空間の中に形態,素材,スケールの多様性とそれらを結び付ける秩序を用意します。そこにやってくる個々の人が,強く引きつけられる部分や全体を発見し,それを共有する人の存在に気づき,そして共に平和を信じることができるよう願っているのです。これは均質で画一的な空間の中では期待できないことです。
部屋名を付けない
食べる・飲む・お昼寝をする・歩く・這う・泣く・笑う・絵を描く・作る・歌う・踊る・手をたたく・・・・保育園での活動は実に様々で、機能は多様です。
しかし保育園の平面計画を行うとき、遊戯室・保育室・ランチルーム・事務室・廊下などの機能分類された名前の部屋を配置することを考えてしまいがちです。それを一度やめてみませんか?
部屋名を付けないで、空間と活動をイメージしてみましょう。部屋名にはスペース1とか部屋大・小とか、機能と関係のない名前を付けます。「遊戯室」と書くより「大きな部屋」と書く方が、「廊下」と書くより「細長い部屋」と書く方が、そこでの空間と活動をより豊かに想像出来るようになるでしょう。
日常生活での活動は必ずしも、部屋名に合わせて行われる訳ではありません。廊下で遊ぶこともあるし、テラスで食事をすることもあります。階段に腰掛けて本を読んだり、床に座って絵を描いたりします。明確な機能分離は保育園になじまない。むしろ、機能的な建物を追求すると、保育の目的から外れてしまい易いものです。求められているのは、いろいろな部屋ではなく様々に使える空間や場所ではないでしょうか。

連続する空間
機能というものは限定して考えない方がよい、とすると、諸室がはっきりと機能毎の各室に分かれ廊下でつなぐようなプランは、今日の保育園の要求を満たしづらい形と言えそうです。
今日の保育園では、子どもたちが自由に様々な場所に行くことが出来るようなプランを考えることが求められるでしょう。様々な場所に行くことで、子どもたちは多様な空間に出会い多様な経験を得ることが出来るでしょう。このためには、保育園の室内は出来るだけワンルームの様に連続しているようなものが望ましいと思います。ワンルームだからといって、体育館のような無機的な大空間、均質な空間ではいけません。均質ではないこと、変化に富んだ多様な空間であることが望ましいと思います。

多様なスケールと空間
人々の活動にはそれぞれふさわしい大きさ、スケールの空間があります。大きな部屋は活動的な使い方に相応しく、小さな部屋はより親密な雰囲気で、少人数で静かに話し合ったりするのにふさわしい空間です。保育園での多様な活動が、それぞれ相応しいような空間を見つけられるように、スケールの多様性を取り入れたいものです。同時に、天井高、床の高さを変化させることにより空間の多様性が生まれます。

大きすぎる空間はつくらない
大きすぎる空間は子どもにとって魅力のない空間になりやすいものです。大きすぎる場所では、子どもたちがよりどころとなるものを見つけられないからです。ちょうど魚が、岩の影や水草の下に身を潜めるように、人々も、柱にもたれたり、壁に沿ったり、アルコーブ状のコーナーなどに身を置くととても安心するのです。
園庭や遊戯室は、運動会やイベントのために大きな空間なので、日常はよりどころのない空間になりがちです。園庭の真ん中に高木が立っていても楽しい運動会は出来そうだし、移動できる家具で遊戯室に親密なコーナーを作ることも出来そうです。視点を変えてみると、より豊かな環境が作れるのではないでしょうか。

小さな洞穴
子どもたちは小さな洞穴のような場所が特に好きです。子どもにしかくぐれない扉や、子どもにしか入れない小さな場所が空間を豊かにします。階段の下や、カウンターの下などちょっとしたスペースを見つけて子供用の「ほら穴」を作りませんか?。
小学校などの学校建築でも、最近はDENと呼んでいる小さな子供用のスペースを、教室または廊下の一部に作ることが広まっています。保育園には是非とも欲しい要素です。

明かりだまり
保育時間が延びた現在では、照明計画も重要性を増しています。室内を均質に明るくするために、しばしば蛍光灯を均等間隔に配置している例を目にします。事務所や工場の様に作業する場では相応しい照明ですが、保育園ではどうでしょう。むしろ不均質で、その場の特徴を作るような多様な明かりが欲しいところです。
照明を低い位置で分散し必要なところを照らすようにし、明かりの濃淡をつける様におすすめします。日暮れとともにすべての照明を同時に付けるのではなく、一つずつ点けていくと、一日の終わり、時の移ろいを楽しむことが出来ます。ろうそくやオイルランプの魅力的な明かりも工夫して取り入れたい物です。

床仕上げ
床の仕上げもまたその場所の活動に大きく関わります。基本的には「柔らかい素材」を使いながら、いろいろな床を用意すると活動の幅が広がります。
和光保育園(図)では、園庭は土、砂、そして30センチほどあがった板の縁側、室内の板の間(保育室)、一番奥はさらに1メートルほど上がって畳の小部屋となっています。外部(園庭)から室内へ、さらに奥へ行くほど、硬い材から柔らかい材へ変化させています。同時に、床レベル(床の高さ)を低い床から徐々に高くしているのでさらに効果的です。コンクリートや土などの荒い床は、汚したり、濡らしたり出来る活動的な床となります。板の床は幅広く様々な活動に適しています。畳や絨毯などの柔らかい床は、静かに座ってお話ししたり、お昼寝をするのに適しています。
日本の古い農家では、「床仕上げ」と「床レベル」を巧みに使い分けていて、参考になります。

様々な椅子
子どもたちの椅子を同一のものではなく、まちまちの物にしてみませんか。古い椅子や新しい椅子、柔らかい椅子や硬い椅子、イギリスの椅子やインドネシアの椅子。様々な椅子を混在させることで楽しい雰囲気が作れます。椅子に限らず、個人の箱などにも同じことが言えると思います。
近代の美意識では統一されたものを美しいとし、統一されていないものを雑多なものとして一段低くみてきました。しかし個の充実を願う今日、一見バラバラなものも、個々が多様に活き活きした状態であるとして再評価する必要があると思うのです。

ちょっと危険な場所
保育園で、子どもの安全確保は最も大切なことの一つです。しかし全ての危険箇所を排除した空間は、保育にも適さない空間になってしまいがちです。ちょっと危険な場所、物、見え隠れ、階段や斜面などこそ、子どもたちにとって楽しい場所であり、それらがまた子どもたちを成長させるのです。危険もまた必要な多様性の一つなのです。
難しい課題ではありますが、工夫して「ちょっと危険な場所」も取り入れたいものです。子どもたちが危険を認識し、自らそれらに的確に対処できるように育ってくれることが、最も望まれることだからです。

自分の居場所
どの子も自分の好きな居場所を見つけられる、そんな保育園を創りたいものです。自分の好きな居場所があれば、そこから自発的な遊びが始まります。そして子どもは、その保育園を、その街を、愛するようになるでしょう。保育園で過ごした思い出が、生涯の宝となれば素晴らしいことです。
地域の人たちもまた自分の居場所を求めています。自分の居場所があれば、地域の人が保育園に訪れる機会が増え 、子どもや保育者や他の父母とふれあうことが出来ます。イギリスの小学校には、父母たちが集まって一杯飲めるバーがあるところさえあります。これが地域に開かれた姿であると言えるでしょう。

第二の自然
私たちの身の回りから、本当の自然という物がほとんど姿を消してしまいました。目の前に見える樹木も、実は自然に生えてきたものではなく、人がある意図を持って植えたものです。畑にしても林にしても同じことです。ほとんど全てが人によって作られた人工環境の中で、私たちは暮らしています。その人工環境を機能性や必要性だけで作っていいものかどうか。自然とともに失ってしまった自然のもつ多様性を、 どのようにして人工環境の中に取り戻すことが出来るのか、これが建築の大きな課題でもあります。
ですから、建築は「第二の自然」とも呼べるような、自然の快適さ、厳しさ、美しさ、驚きをもつ複雑で多様なものにしたいのです。子どものための環境では、特に大切にしたいことです。

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多様な形
多様な空間
縁側の床の上で
多様なコーナーを持ちながら、連続する空間(せいがの森保育園)
均質でないワンルーム
こども用のスペース
お話コーナーはこどもたちのお気に入り
保育室の奥に一段高くなった畳の小上がりがある
中庭の真ん中に一本の大きな樹がある風景
子ども空想美術館
こどもたちとワークショップでつくった多様な空間
屋上の傾斜はこどもたちの大好きな場所
ちょっと危険な空間も
様々な人々